コミュニティ工学宣言

一匹の妖怪が現代日本を歩き回っています-少子高齢化という妖怪が。国立社会保障・人口問題研究所によると、2045年には45都道府県で75歳以上、つまり後期高齢者の人口が20%を超えるそうです。自治体の財政や社会保障に大きな影響が出ることはもちろんですが、コミュニティのあり方も、これまでの知識や常識が通じないような、まったく新しいものになることが予想されます。知の殿堂たる大学は、この妖怪に対して何ができうるのでしょうか。

工学技術はこれまでに数多くの便利なモノやシステムを生み出し、私たちの生活を快適なものにしてきました。それはもちろん歓迎すべきことですが、一方で、便利になるということは他者の助けを借りずに様々なことができるということでもあります。その結果、「自分のことは自分でする」という状況がもたらされました。つまり、工学技術はともすれば人を孤立させる方向に向かわせてしまうのです。しかしながら、人は社会なくしては生きていけません。社会は単なる個体の集合体ではありません。社会の基本単位がコミュニティですが、そこには独自の歴史、文化、伝統、慣習があり、ソーシャル・キャピタルが存在します。このようなコミュニティのいわば財産を守り、育てていく方向に工学技術を生かすことを目指すのが、わたしたちが提唱するコミュニティ工学です。日本が直面している、人類史上例をみない極端な少子高齢化に対して名古屋工業大学ができることのひとつが、コミュニティ工学の推進ではないでしょうか。

工学にとっても、コミュニティ工学は従来の方向性からの大きな転換であり、挑戦であるといえるでしょう。コミュニティ工学は、コミュニティ「の」工学、つまりコミュニティそのものを工学の対象とするアプローチと、コミュニティ「と」工学、つまり既存の工学技術をコミュニティの活性化に生かすアプローチのふたつからなります。そこには従来の工学のみならず、人文社会系学問の知見も必要でしょう。コミュニティ創成教育研究センターはその創設から6年にわたり、工学技術とコミュニティをどう繋いでいくのかという問題について、さまざまな分野の方々と一緒にワークショップやシンポジウムを通じて考えてまいりました。その成果として練り上げられてきたコミュニティ工学という新しい概念を普及させ、さらに実践していくことが今後の課題といえるでしょう。

コミュニティ創成教育研究センターはその名にあるように、教育機関でもあります。昨年度から学部生向け講義として「コミュニティと技術」が新設され、当センターが主体となってその内容作成と運営を進めてまいりました。この授業では、講義によるいわゆる座学のみならず、事例地区等を想定した諸技術の社会実装に関する演習を取り入れ、また外部の実務家も含めた総勢10名に及ぶ講師による多様なリレー講義を学生に提供しております。未来のコミュニティを担うのは、現在学生である若い人達です。本学の憲章にも謳われる「未来づくり」の一環として、今後も教育活動を充実させてまいります。

このような、秀島栄三前センター長が築いてこられたものを踏襲しつつ、さらなる発展を続ける所存ですので、皆様には引き続きご指導ご鞭撻賜りますようお願い申し上げます。

コミュニティ創成教育研究センター センター長 小田 亮


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