昨年2020年からのコロナ禍により、コミュニティの在り方が変化しつつあります。多くの人々がオンラインのコミュニケーションに慣れつつある一方で、その限界や難しさを感じる場面もありますよね。特に、新たな人間関係を構築する際などは、対面のコミュニケーションを完全に代替してしまうのはまだ難しい気がします。その反面、オンラインのみで成り立つコミュニティが急増していたり、これまで対面でやっていたボランティア活動をZoomでの活動に変えた事例も増えていますので、コミュニティの在り方というのは現在進行形で変わりつつある最中のようです。
我々コミュニティ創成教育研究センターは、こうした過渡的な社会情勢の下での、新たなコミュニティの在り方をデザインしたいと考えています。地縁に根差した地域コミュニティは、言わずもがな、生活を支え合う上で必要不可欠です。が、少子高齢化が進む中、地縁だけでは地域コミュニティを維持できない事例も増えていくと予想されます。いわゆる「関係人口」を増やし、地域の文化を継承していくためには、SNSなど物理的な距離を超えたオンラインの繋がりもますます大事になっていくことでしょう。高齢化したコミュニティに若い人を呼び込もうと思ったら、SNSの活用やオンライン化・デジタル化は必須ですし、そのようなことが得意な若い人に助けてもらう好機と捉えることもできそうです。例えば、2020年3月にオープンソースコミュニティによって開発された東京都のコロナ対策サイトが、各地の有志によって次々と横展開されましたが、10代の若い世代が中心になって開発された県が複数ありました。そのような驚くべき行動力を持つ若い人々を応援し、参加してもらえるコミュニティを作ることが、非常に重要になるはずです。
さてこのように、コミュニティにおけるSNS活用やオンライン化・デジタル化は避けて通れないわけですが、現状のSNSは社会を分断したり、フェイクニュースなど怪しい情報に惑わされるコミュニティが発生したりと、様々な問題点も顕在化してきています。また2021年3月には、あるSNSのユーザの個人情報が外国の協力企業から閲覧できてしまう、という問題が報じられたりもしました。このような、既に顕在化しているオンラインコミュニティの様々な問題点も踏まえた上で、次世代のコミュニティの在り方をデザインするには、何を拠り所にすれば良いのでしょうか。
この挨拶を書くために色々と検索をしておりましたら、そのヒントになりそうな概念を見つけました。「コミュニティ・ウェルビーイング(community well-being)」という概念です。well-beingという語は、「良好な状態であること」を意味し、元来は1948年のWHO憲章で初めて使われた単語だそうです。「幸福」「安寧」などの和訳が与えられる場合もあり、身体的・精神的・社会的に良好な状態を指します。様々な学問分野で研究対象になり、学術的知見も蓄積されてきています。そのwell-beingの前に「コミュニティ」を付けた「コミュニティ・ウェルビーイング」は、以下のように定義されています。
「コミュニティ・ウェルビーイングとは、個人とそのコミュニティが繁栄し潜在能力を発揮するために不可欠なものとして認識される、社会的、経済的、環境的、文化的、政治的条件の組み合わせである」[Wiseman and Brasher, 2008: 358]
「じゃあ、その社会的、経済的、環境的、文化的、政治的条件って何なんですか」と突っ込みたくなりますが、具体的な条件はやはりコミュニティで共有されている価値観によって、少しずつ異なるはずです。そのコミュニティ・ウェルビーイングを決める条件をコミュニティ内で話し合ってすり合わせるプロセスこそが、価値観を共有する上で重要なのかもしれません。ただ、そのような合意形成のプロセスをうまく支援する仕組みを開発したり、多くのコミュニティで共通する標準的な指標をデザインすることはできそうです。我々コミュニティ創成教育研究センターでは、最新の工学的知見をうまく使いつつ、コミュニティ・ウェルビーイングを高める仕組みをデザインする試みに取り組んで参ります。
コミュニティ創成教育研究センター センター長 白松 俊